2011/2/10 木曜日

五木寛之

Filed under: おしらせ — admin @ 8:19:58

文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第79号

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                       『五木寛之』

                         学校長 荒木 孝洋

 私が教職に就いて間もない頃(昭和44年)、先輩のF先生と古本屋に行く機会がありました。F先生は特別に本を選んでいる風でもなく、本棚をあちこち漁り、値段を見ては元に戻す事を繰り返している。時折、微笑みながら「随分値上がりしている」と独り言を言う。その時、特定の作家の初版本には、とてつもなく高い値段がつくことを教えてもらいました。つまり、F先生は読みたい本を購入するのが目的ではなく、値上がりしそうな本を探したり、既に購入している本の値上がり具合を確認していたのです。定価50円の文庫本が何千円だったり、十数万円(今だと百万円を越える)という値段が付けられている本も目にしました。その後、F先生の薫陶(?)を受けて、私も本の買い漁りに没頭することになってしまったのです。「読みたいから」とか「必要に迫られて」といった知的欲求とは全くかけ離れた本の購入です。ボーナスの半分をつぎ込むような馬鹿げたこともしました。狭い六畳の部屋は購入した本でいっぱいになり、織田作之助、五木寛之、坂口安吾、高橋和巳など名前を見ただけでも気持ちが高ぶり満悦していました。私にとって、「古本屋めぐり」は宝探しのように内心ワクワクする「買物行脚」だったのです。 とは言え、折角買った本ですから、せっせと読みました。振り返ると他愛もない蒐集でしたが、これがきっかけで五木寛之のファンになりました。『さらばモスクワ愚連隊』『青春の門』『青年は広野をめざす』『デラシネの旗』etc、作品のほとんどを完読しました。筆者は、昭和56年から一時期、龍谷大学で仏教学を学ぶために休筆しましたが、執筆再開後に「大河の一滴」「蓮如物語」「生きるヒント」「林住期」などが出版されました。肩に力が入るような感じで読んだ以前の作品と比べると、作風も変わり、随分読みやすくなっています。筆者も講演の中で「ぼくは生きていることが好きです。かってはそうでない時期もありました。自殺を考えたことも、ないわけではありません」と、文体の変化について胸中を述べておられました。

 今日は、この中の一冊「生きるヒント」を紹介します。作品は十二章に分かれていますが、全てが話し言葉で始まるのが特徴です。「先日、ある雑誌の・・・」「最近、ぼくが気になっている・・・」「久しぶりに、部屋の掃除にとりかかりました」・・・と。空間や時間を超えて次々と話は転換していきますが、決して性急でも押しつけがましい道徳論でもありません。生きていくための元気とか勇気や自信を与えてくれます。歴史的な史実や地理的描写もきちんと記述されており、テンポのいい文体には心地良ささえ感じます。また、筆者はジャズにも堪能で、随所に音楽の世界が現れます。

 作者は、人の生き方について「人間誰しも鋼鉄のような強い意志を持っているわけではなく、迷いながら生きている場面が多い。生きていくために何かが必要だ」と述べています。私たちが生きていくためには、物質的な物以外に、多分、心の支えとなる精神的な「何か」が必要だろうと思います。生活環境とか生育歴や年令等も関係するでしょうが、それは、「人生観」であったり「思想」、「愛」、「生き甲斐」、「信仰」とかでしょう。しかもその「何か」は、万人に対して共通な形で与えられるのではなく、チルチルミチルが探していた「幸せの青い鳥」のように、自分自身の心の持ち方次第であることを本書は教えてくれているような気がします。そんな意味で、本書はタイトル通り「生きるヒント」なのかもしれません。中学生や高校生の皆さんにも親しみやすい本です。 最近、熊日新聞で「親鸞〜激動篇〜」の連載が始まりました。毎朝、ワクワクしながら新聞が届くのを待っています。朝の楽しみがまたひとつ増えました。

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