2012/1/25 水曜日

成果の測定

Filed under: おしらせ — admin @ 10:11:36

文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第93号          

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              『成果の測定』

                           学校長 荒木 孝洋

 センター試験が終わり受験生はホッと一息、悲喜こもごもの様子は今年も同じだ。学校を製造工場に例えるなら、丹精込めて加工(指導)した製品(生徒)が高値(志望校)で販売(合格)されることを願わずにはおれない。思うように得点できなかった生徒は気持ちが滅入っているだろうが、挽回のチャンスは残っている。残された一ヶ月、全力で個別試験にチャレンジして欲しいと願っている。一方、今日はいよいよ高校入試、今年も1600名を越える受験生。定員が360名だから希望者全員を仕入れる(合格)わけにはいかないのが辛い。毎年のことだが、デリケートな受験生の心理を考えると神経をすり減らす作業が続くことになる。

 ところで、「教師は世間知らず」とよく言われるが、「世間も学校をよく知らず」と思うことがある。例えば、欧米と日本の教育環境の違いについての質問もそのひとつだ。学力世界一と言われるフィンランドでは、生徒の授業料は大学院まで無料、教師の仕事は授業のみ、待遇も弁護士や医師と同程度と優遇されている。小中学校では午前中の授業が終わると、午後は校外の施設で習い事やクラブ活動を行う。生活指導や進路指導は家庭の責任と聞いている。子どもへの昼食手当も給付されるそうだ。このように日本と欧米では、教育環境も教師の責務も異なるが、授業が学校教育の根幹であることは共通である。

 そこで、授業についての現場教師の苦労について少し触れてみたい。 実は、授業は簡単なようだが、多様な要素から成り立っている。まず、授業の前に教材研究や補助教材の準備、教科によっては小道具の作成などから始まる。教材研究には授業の2倍から3倍の時間を要する。特に、若い先生は問題の吟味・選択に多くの時間を費やす。また、服装や教室への入り方、出欠点呼などの細かいことさえ児童生徒の学習心理に影響するから気を遣う。

 一般的に授業は、【導入】、【展開】、【まとめ】と分けて組み立てる。導入部分では、時間配分は少ないが学習意欲を左右する重要な場面で、教師の力量が問われる。そして、授業の大部分を占めるのが展開である。声の大小の使い分け、間合いの取り方、教育機器の使用、発問応答や机間巡視のタイミング、質問への対応など、留意すべき要素は限りない。まとめの時間も短いが、学習内容の定着に関わるので工夫が必要だ。終了後も、児童生徒の状況観察や換気の指示など、さまざまな配慮が求められる。しかも、授業環境は刻々と変わる。前時の授業の状況、時間帯、車の警笛や鳥の声など、学習を左右するものは無限にある。例えば、天候による教室の明るさの変化に板書の大きさやチョークの色を対応させるなど、即座かつ有効な対応が必要だ。しかも、同じ時間、同じ先生から、同じ内容を習っても、生徒の習熟状況は全く異なる。小テストで確認することも多いが、自分ではよくできたと思う授業でも理解が高いとは限らないのだから授業は難しい。

 大阪の橋下市長は「教育改革」と称してさまざまな提言をされている。その中の一つに成果の測定がある。つまり、人事評価や学校評価を民間企業に倣って行うということである。しかし、人づくりは物作りと違って指導と成果の間にはタイムラグがあり、因果関係もはっきりしないことが多く測定は極めて難しい。しかも、子どもを取り巻く教育環境は昔と様変わりし、塾やテレビならまだしも、ネットや携帯など子どもへの情報源は計り知れないから教師の悩みは深刻だ。大人から見れば、学校の仕事をまどろっこしく感じられることがあるかもしれないが、志を育てる作業には時間がかかることも理解して欲しい。世間の出来事や社会の直近のニーズだけに対応した授業や指導をしていると子どもは育ち損なう。授業評価や学校評価など成果の測定は橋下市長が言われるほど簡単ではない。 

2012/1/13 金曜日

夢なき国は滅ぶ

Filed under: おしらせ — admin @ 12:12:17

文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第92号 

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            『夢なき国は滅ぶ』

                         学校長  荒木 孝洋

  6日は小寒、そして21日が大寒、暦を見るだけでも寒くなる季節だ。元日の熊日新聞に「今、昨日は去年となり、今朝は心身真っさらな新年である。・・・年を重ねた今も土いじりができる。誰よりもわたしの涙を知っている土に語り、今年も土と共に生きたい」という天草の山並さん(88才)の声が寄せられていた。自分を支えてくれる自然への感謝の気持ちが淡々と述べられており、清々しい気持ちになった。

 毎年のことだが、新年は老若男女を問わず身心を新たにしてくれる。新学期が始まり学校にも活気が戻ってきた。教室からこだましてくる子どもたちの元気な声が寒さを吹き飛ばす。幸多き一年であることを祈りながら3学期の始業式を迎えた。 ところで、昨年の11月下旬にブータン王国の国王夫妻が来日され話題を集めた。ブータンはヒマラヤの麓に位置し、インドと中国という大国に挟まれた小国であるが、国民総幸福度(GNH)が他の国に比べて極めて高いということで注目を集めている。聞き慣れない用語だが、ブータンでは、GNHをGNP(国民総生産)の概念に代わる国の指標として位置づけ、経済的な豊かさのみを追いかけるのでなく、個人が幸せを感じることができる環境作りに国が率先して取り組んでいる。国勢調査では、国民の9割以上が「幸せである」と回答しているという。教育費や医療費が無料であるとしても、国民ひとりあたりの収入は先進国の10分の1、「お金はないが、幸せいっぱい」という絵に描いたような国家が実現しているのである。最近は、イギリスやフランスの政府でも国民の幸福度について真剣に政治的課題として議論されているそうだが、日本はどうだろうか? 内閣府の調査によると、「幸せを感じている」との回答は全体の1割程度と、先進国の中で最低水準だそうだ。識字率も生活レベルも全ての面でブータンより高い水準にある日本人のGNHがなぜこんなに低いのだろうか? 振り返ってみると、戦後日本は、国全体で高度成長という目標を共有し貧困を脱した。その結果、国民生活は著しく向上したが、時代と共に世代が変わり、生活満足度の基準も高くなってきた。大した苦労もせずに豊かな生活を享受できるという悪しき風潮は若者から精気を奪い、一方では、経済のグローバル化に伴い格差が拡大し、競争に負けた人間は夢すら持てなくなってきている現状にある。成熟化した社会の宿命と言えばそれまでだが、『夢なき国は滅ぶ』のは歴史が示すところだ。 一方、国内事情も不安材料ばかり。東日本大震災の復興や収束不透明な原発事故、長引く不況と円高に伴う企業の海外流出など、年が改まっても「真っさら」というわけにはいかないのが率直な心境だ。

 国民生活白書によれば、家族と一緒に過ごす時間が長い人、隣近所や仕事関係の人と行き来が多い人ほど生活満足度が高い傾向にあると報告されている。希薄化が進む家族関係や地域コミュニティ再生は簡単なことではないが、せめて可能な範囲で前向きに進みたいものだ。天草の山並さんにあやかれば、「年を重ねた今も教育に携われることに感謝し、今年も若者の育成に全精力を注ぎたい」と思う新年である。加えて、日本の指導者の皆さんにもお願いしたい。「どうか、若者が夢を持てる魅力ある施策を実行し、雇用創出にも真剣に取り組んで下さい」と。日本国民の総幸福度(GNH)が少しでも高くなることを期待している。

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