2013/12/9 月曜日

じわーっと染みこむ

Filed under: おしらせ — admin @ 13:48:08

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文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第118号

                            『じわーっと染みこむ』                                                                                                    学校長 荒木 孝洋

 『今日します 明日しますと もう師走』早いもので一年の終わりを迎えようとしている。センター試験まで残すところ一ヶ月、受験勉強に熱のはいった3年生にとっては追い込みの時期、いくら時間があっても「まだやり残したことがある」と焦りが彷彿するのもこれからだ。「もう一ヶ月しかない」ではなく「まだ一ヶ月もある」、大願成就に向けた最後の踏ん張りを期待している。
 しかし、早いのは師走ばかりではない。ネットやスマホの普及で時間の流れまで早くなり、人の動きが年中師走のようにけたたましい。置いてけぼりを喰らったお年寄りと日々情報のやりとりに翻弄されている若者の生活空間は異次元の様相だ。社会がグローバル化すれば、他国との競争にはスピードが求められるのも理解できるが、走ってばかりいると大切なものを失ってしまう。いつの時代も、どの国でも、急いではならないことが幾つかある。代表的な例が『子育て』と『教育』だ。
 ところが、最近の教育改革はてんこ盛り、小学校での英語教育、道徳教育の教科化、教育課程の改訂、センター試験改革に伴う統一試験の導入など・・・いずれも先行き不透明な大改革である。子どもは試行錯誤を繰り返しながら大人に成長していく。“這えば立て、立てば歩めの親心”一日も早い子どもの成長を願う親の気持ちは自然な感情だが、立ち止まりや成長の個人差を許容できる大人でありたい。美味しい酒が時間をかけてユックリと醸成されるように、学校にも、子どもの成長に合わせてジックリと熟成させる時間と空間が欲しい。教師として45年、教え子には還暦を迎えた子もいる。立派に成長した教え子と話しながらいつも思うことだが、成長には『教わって身につく』分野と『伝わって身につく』二つの分野があるということを実感する。知識や技術は「教わらなければ身につかない」分野であり、人間性や価値観や生活習慣などの『伝わって身につく』分野は『じわーっと心に染み込む』分野である。だから、口や言葉で教わるより経験や試練を通して身につく場合が多い。
 思いおこすと、大人の誰しも経験していることだが、親に後押しされながら自転車の乗り方を覚えたし、小学校では算数の九九や漢字を徹底して教え込まれ、中学・高校では必死に英単語を憶えさせられた。しかし、学んだことは先生からだけではない。弱い者を虐めるとそれを咎めてくれたのは先生ではなく先輩であったし、憧れの先輩の薫陶や偉人伝を読んで背筋が伸びる思いをしたこともある。仏壇に手を合わせて命のはかなさに思いをめぐらし、お年寄りから褒められたり叱られたりしながら生活習慣を身につけていった。いずれも高度成長期までは当たり前の光景であったが、今は忙しすぎる。じっくり考えたり、身の丈にあわせて過ごす時間が減らされ、じわーっと心に染みこむ暇もないし、心のゆとりも失いつつある。
 そもそも、人間性・価値観・生活習慣というものは、教えるだけでは身につかない分野なのに、それを知識や技術と同様に口や言葉だけで、しかも、一気呵成に教えようとすることに無理がある。しかも、いじめや不登校が増えると、世間はすぐにその責任や対策を学校教育に求めたがる。規則や対策委員会をどれだけ作ってもいじめはなくならないし、道徳教育だけで優しい心が醸成されるとも思えない。「命が大事だ」「心が大事だ」「いじめはいけない」「お年寄りを大切に」・・・小学1年生でも知っていることなのに・・・事件や犯罪が起きると、テレビでは評論家たちの無責任な批判と提言が続出する。大人も子どもも『????』戸惑うばかりだ。「子育ては社会全体でするもの」という言葉がむなしく聞こえてくる・・・「背中で伝える教育」がドンドン萎んでいく。文徳学園は、これまでも、これからも、『急がず・慌てず』、心に『じわーっと染みこむ』教育を大切にしていきたい。

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