2014/4/21 月曜日

所得とプライバシー

Filed under: おしらせ — admin @ 17:14:30

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文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第120号

          『所得とプライバシー』
                            学校長 荒木 孝洋

 新緑もそうだが、真新しい新入生の制服がことさら目映く見えるこの季節、文徳高校では、竣工したばかりの新体育館に433名の新入生を迎え新年度がスタートした。学校はこの季節になると全てがリセットされた気分になり、まさに心機一転というムードになる。
 ところが、今年から新たな仕事が増え事務職員はてんてこ舞いの毎日だ。いわゆる「高校授業料無償化」見直しに伴い、新たな就学支援金制度に所得制限が導入されたからだ。「経済的に厳しい家庭には手厚い保護をする」という法の趣旨には大賛成だし、公立に比べて校納金が高い私立高校に通う生徒の家庭にとっては有り難い制度変更である。しかし、学校現場は悩ましい。それは、学校で全ての家庭の年収を把握しなければならないということに起因する。新しい制度では、「親権者」の所得制限のラインを910万以下としているから、該当する「親権者」全員の所得証明を集めなければならない。所得証明が未提出の場合(学校が確認する義務はないが)個別に電話で連絡し、提出された書類が不備の場合も同様の対応をしている。しかし、不在が多く電話での確認には手間ヒマかかる。
 しかも、世の中には複雑な事情を抱える家庭も少なくないから、事務処理には様々なケースが想定される。例えば、離婚家庭で、養育しているのは母親だが親権が父親にある場合、必要なのは親権者である父親の所得証明であるが、学校ではどちらが親権者であるかは判断できないので、保護者の申告によって事務処理することになる。母親から無収入の所得証明書が提出されれば、規定に従って最高額の就学支援金が支給されるし、「親権者は父親だが、離婚した父親が所得証明書の提出を拒否しているので出せない」(母親の申告)となれば就学支援金は出ないことになる。また、高額な預貯金で生計を立てている祖父母が親権者の場合でも、所得証明が年金だけだとしたら就学支援金は最高額になる(校納金の出所までは詮索できない)。さらには、共働きの家庭なら、夫婦二人の所得証明書を揃えなければならない。そして、年度途中に親権者の変更や家計の急変に伴う所得の変更があっても、保護者から申告がなければ学校は対応できない。
 一方、学校で最も気を遣うのはプライバシーの保護である。今回の制度では、提出された所得証明から年収だけでなく、お互いに「知られたくない」「知らなくてよい」情報が結果的に学校に集まってしまい、家庭のプライバシーまで透けて見えてしまうからだ。本校では、プライバシーの保護のために、所得証明書の提出については、密封した封筒以外は受け取らないことにしている。だから、各家庭の所得は事務担当以外の職員は知ることができないし、不備な書類についての保護者への問い合わせも担当者以外は行わないことにしている。さらに、事務処理の正確さにも気を遣う。従来一律だった校納金の額も一人一人異なることになるから、金融口座から引き落とす額も異なってくる。もしも口座を間違ったら大問題だし、事務処理に使っているパソコンによる情報流出も心配だ。当分、神経をすり減らす仕事が続くだろう。
 一般的に、今回の改訂については好意的に論評する人が多いし、マスコミも「ばらまき政策からの脱却!弱者に優しい政策」との好意的な論評が多い。理解できる施策であるが、現場の悩みは上記の通り溜息の出るようなことばかりだ。その原因は、公的機関(警察や税務署)でもない学校に、お金の絡む各家庭の秘密が集まることにある。そもそも、各家庭の収入は市町村が把握しており、生活保護や児童手当のように就学支援金の申請も市町村が窓口になれば、プライバシーに関する保護者と学校の葛藤は解決する。学校で必要なのは、親権者の名前や家族状況ではなく、生徒の就学支援金の額だから、市町村が決定した就学支援金証明書(仮称)を頂くだけでよい。制度の変更はそう簡単ではないだろうが解決策を期待している。

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