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2016年09月の記事

ロボットは万能か?

2016年9月26日

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文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第145号

 

『ロボットは万能か?』

学校長 荒木 孝洋

 

 台風16号接近、子どもの安全が最優先と始業を2時間遅らせたが、進路がそれてホッとした。しかし、台風が通過した鹿児島や宮崎方面では甚大な被害が出ているようで、台風銀座と言われている九州人としては人ごととして済ませられない。最近は台風の進路予測もGPSにより精度が高くなり降雨量や風速まで刻々と伝えられ、天気予報も様変わりした。特に災害予報については、熊本地震以降心身ともに過度に反応してしまう。

 ところで、GPSだけでなく文明の利器の広がりは想像を絶する速さで進展している。スマホ、デジカメ、エアコン、ロボット掃除機、ゲームポケモンなど、世界は人工知能の時代に突入し、与えられた命令のもとに制御されている人工知能により私たちの生活は便利で快適になる一方だ。ポイントはAI(人工知能)である。コンピュータの計算速度が飛躍的に向上したことにより、人間に近い知的な処理がスムーズに行われるようになった。その結果、一定の形式を持つ業務(仕事)はAIで代行できるようになり就業構造がガラリと変わってしまいそうだ。見渡すと、50年前はなかったものが家の中にもゴロゴロ。テレビ、携帯、炊飯器、ガス。今では、エアコンなしの車を探すのも難しい。福島では、原子力発電所の事故処理の一部をロボットが担い、熊本地震では、壁面が崩落した57号線の道路復旧が、自動運転のダンプやショベルカーで作業が進められるなど、人間にとって大きなリスクのある活動に対しても極めて便利な文明の利器となっている。また、GPSとセンサーやカメラ映像解析技術を搭載した自動車は、運転時に人間が行っている知的判断をプログラム化し、人工知能による自動運転も実用化されている。また、佐世保のホテル「変なホテル」(名前も変だが)ではロボットが受付や部屋の案内までするそうだ。

 しかし、人工知能を搭載したロボットは生活に利便さをもたらすだけではない。使い方を誤ると人を殺傷し物を破壊する兵器にもなってしまう恐れがある。すでに、米国は、アフガニスタンなどで「対テロ戦争」に遠隔操作の無人機(ドローン)を投入している。また、イスラエル軍は自動運転の軍用車を実戦配備し始めたとの報道もあるし、同様の兵器を米国、中国、ロシアなど少なくとも6カ国に開発能力があると言われている。本来、人は人を殺すことへの心理的抵抗があるが、何の痛みもなく敵を殺傷できるようになれば、戦闘行為に歯止めがきかなくなる。人を殺傷しても、現場からは遠い操縦室では被害者の苦しみも恐怖も感じないだろうし、攻撃の決断まで機械に委ねることになれば、戦争を現実感のないゲームにしてしまう恐れがある。人工知能を搭載した災害救助ロボットも自動運転の自動車も戦車もドローンも仕組みは同じである。使用目的を誤ればとんでもない事態に突入する。兵器も救援道具も開発には境界線がないだけに人類は新たな難題に向かい合うことになる。

 すでに報道されていることだが、我が国はこれからさらに少子高齢化が進み、労働人口は減少し、税収も減っていく。ロボットや人工知能の活用は、このこととも無縁ではない。新しいテクノロジーを上手に活用し、人間がより人間らしい仕事に従事するとなると、子どもたちはテクノロジーを的確に用いる力を身につけることが求められる。新しい指導要領には、新たに「プログラミング教育」が加わり学校教育の範囲が広がる。コンピュータがどんな仕組みで動き、何ができ、何が苦手なのかを教えるだけでなく、「コンピュータをどう使っていくことが、より人間らしく生きていくことに繋がるのか」を教えることが肝要である。小さい頃、「道具に頼るな、手足を動かせ」と親父から言われたことを思い出す。「人間の五感を大切にしなさい」と理解している。最近は、病院に行くと触診ではなくて検査データをもとに診断されるケースが多くなった。五感よりデータ重視となれば、22世紀はロボットが人間の生殺与奪の権を握ってしまうSF社会になってしまうかもしれない。