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2019年2月25日
文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第171号
『大坂なおみ選手が教えてくれたこと』
学校長 荒木 孝洋
テニスの国際大会での大坂なおみ選手の活躍に日本中が湧いた。大坂選手は世界の4大大会である全米オープンに続き、1月末に行われた全豪オープンでも見事優勝。チェコのクビトバ選手との決勝戦は2時間半の死闘、身長180センチの長身から繰り出される時速160キロのサーブ、精密機械のようなボールコントロール、久しぶりに興奮しながらテレビを見た。一方、グビトバ選手の気力も凄い。2セット目、あと一本で負けとなる試合を土壇場で逆転した。しかし、それに怯まず大坂選手は落ち着きを取り戻し見事3セット目を取り返し勝利した。プロだからと言えばそれまでだが、鍛え抜かれた二人の技と崖っぷちでの精神力の強さに感動した。
ところで、大坂選手の優勝会見やその他の言動を見ていて思うのは、「国際社会で活躍する際に求められる資質とは何だろうか?」と言うことである。もちろん、仕事の力量、彼女で言えばテニスの技量がなければ大舞台では活躍できないし、一定以上の英語力も重要な武器になるだろう。大坂選手を見ていると、彼女を賞賛する声のかなりの部分が、テニスの技量ではなく人柄に向けられているように思える。優勝インタビューでは開口一番、たどたどしい日本語で「ハロー!人前で話すことは本当に苦手なんです」と言って観衆の笑いを誘い、自然体でウイットに富んだ受け答えをするなど彼女の話術は大変魅力的である。さらに、彼女への賞賛は謙虚さに対して向けられているようにも感じる。米国のある新聞は、「これまででもっとも謙虚なチャンピオンだ」と記しているし、インターネットでは「謙虚なアスリートである大坂選手は素晴らしい試合をしたチェコのペトラ・グビトバ選手に対して感謝の意を伝えることを忘れなかった」と報じている。彼女の謙虚さは、時に「シャイ」と形容されることもあるが、彼女の人柄に対して与えられるこれらの形容詞は、彼女への好意から発せられているような気がする。
昨今、日本では、グローバル人材の育成が急務だと言われ、そこで強調されるのは、自分の意見を相手に発信できる主体性・積極性である。また、コミュニケーション力を備えることも大切だとか、英語力の強化も求められる。それゆえ、学校現場では、こうした資質を子どもたちに育てようと、授業では発表の機会やディスカッションの場面を増やしている。小学校から英語教育が始まり、アクティブラーニングが推奨されるのもこの流れの一環である。しかし、大坂選手を見ていて思うことは、こうしたグローバル人材の資質リストには上がっていないものの、日本人が古来から大切にしてきたこと、すなはち、謙虚な振る舞い、相手に対する敬意、思いやる気持ち、礼儀正しさが、国際社会においても高く評価されているということである。はにかみながら謙虚に自分を語る大阪選手は、我々にそんなことも教えてくれた。
話は変わるが、阿蘇の西原村に医療や自動車などの測定機器を製造する堀場エスティックという会社がある。本社の堀場製作所の社長は、熊本地震直後に現場を訪れ、必死になって復旧に頑張っている社員を見て「製品は作り直せるが、この人材を捨てるわけにはいかない。人材は宝だ」と思い、工場移転をやめてこの地での再建を決意したそうだ。まさに「企業にとって社員は人材ではなく人財だ」ということだろう。因みに、堀場製作所は、工場40の内半数が外国にあるグローバル企業である。創設者である故堀場雅夫氏は「これらの工場は、創業以来の社員の緻密な仕事と誠実な対応に相手企業が惚れて、先方から買収や合併の申し出があった企業ばかりだ。企業で大切なのは人間性。チャラチャラしたおべっか人間や金儲けが目的の企業は世界で通用しない」と述べておられた。大坂選手もグローバル企業もそうだが、世界で信頼される日本人に必要な資質は英語力ではなく、むしろ、武士道精神かもしれない。差し替え