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2019年01月の記事

2019年1月16日

文徳中学・高等学校のことをもっと知りたいと思っている小学生・中学生とその保護者の方々へ 第170号

 

                   『日本が売られる』       

                                                                                                              学校長 荒木 孝洋

 

 新年明けましておめでとうございます。今年は穏やかな天候に恵まれ、心地よく年始めの時間を過ごすことができた。子供の頃のように「もういくつ寝るとお正月、お正月には凧あげてコマを廻して・・・」と、浮き浮きしながら正月を待ち焦がれることはないが、この歳になっても、年が明けるとフレッシュな感覚になる。毎年恒例の親族一同の新年会は、今年も2日に、93歳の母親と兄弟姉妹とその配偶者、さらに甥や姪とその子どもまで含めて総勢29名が集まりお互いの無事と健康を確認した。

 ところで、9連休のタップリと与えられたこの時間、ありがたいことに、ドタバタばかりのテレビから離れ5冊の本を読み上げることができた。藤原正彦氏の「国家と教養」、外山滋比古さんの「思考の整理学」など・・・その中で、ショッキングだったのは堤未果さん著書『日本が売られる』だった。290ページの本の帯には、「日本で今、起きているとんでもないこと」と称し、新たに制定された法律がヅラーっと書いてある。その名称を紹介する。水が売られる(水道民営化)/土が売られる(汚染度再利用)/タネが売られる(種子法廃止)/ミツバチの命が売られる(農薬規制緩和)/食の選択肢が売られる(遺伝子組み換え食品表示消滅)/牛乳が売られる(牛乳流通自由化)/農地が売られる(農地法改正)/森が売られる(森林経営管理法)/海が売られる(漁協法改正)/労働者が売られる(高度プロフェッショナル制度)/日本人の仕事が売られる(移民50万人計画)/ギャンブルが売られる(IR法案)/学校が売られる(公設民営学校解禁)/医療が売られる(国保消滅)/老後が売られる(介護の投資商品化)/個人情報が売られる(マイナンバーが外国企業へ)・・・マスコミでもほとんど取り上げていない法ばかり、しかも、日本の未来への負の遺産が目白押し、読み返す度に暗い気持ちになる。一体、誰が、何時、こんな法案を作ったのだろうか?著者の思い込みによる極論もあるかもしれないが、政治家に怨念さえ生まれてくる。しかし、その政治家を選んだのは我々国民だ。最終的にこれらの法律に縛られ窮屈な思いをするのは我々国民だ。

 暗い気持ちで本を閉じようと思ったが、あとがき『売らせない日本』の提言を読んでホッとした。まだ間に合う、我々にできることがあると指摘されたようで救われる気持ちになった。それは、スペインのテレッサ市で水道の運営権を民間から買い戻し再公営化した市民会議のシルビア・マルティネスさんの言葉だった。「公共サービスを民間に売り渡すことは、結局高くつくだけじゃなかった。一番の損失は私達一人ひとりが自分の頭でどういう社会にしたいのかを考えて、そのプロセスに参加するチャンスを失うことの方でした。国民はいつの間にか、何もかも〈経済〉という物差しでしか判断しなくなっていた。だから、与えられたサービスに文句だけ言う〈消費者〉に成り下がって、自分たちの住む社会に責任を持って関わるべき〈市民〉であることを忘れてしまっていたのです」と。この言葉はソックリ日本人に投げかけられているような気がする。消費税10%にあげる政策にしたって、政治家から出てくる言葉は経済政策のことばかり、批判する野党や国民の声も似たようなものだ。日本の未来を展望する提言はマスコミは取り上げない。「今だけ・カネだけ・自分だけ」の狂ったゲームに狂想していると日本は壊れてしまう。「四半期利益でなく、100年先も皆が共に健やかで幸せに暮らせる方に価値を置き、強欲主義から脱却しようとしている国民の姿こそこれらの法の運用を正常化する羅針盤だ」と、これは堤さんのからのメッセージである。

 熊本出身の“ヒロシです”の言葉を思い出した。「視力はいいけど未来が見えないのです。足腰はいいけどドブに落ちました。普通に喋ってもアベさんは聞いてくれません」・・・。これまでの日本は曖昧な言動でもどうにか生きてこれた。しかし、グローバル化していくこれからの社会、若者には他国の人との共存が求められる。「目的」と「手段」を混同せずにキチンと議論し、自らの考えを提言する能力を培って欲しい。若者よ!貴方の意見は“糠に釘”ではない。都合悪い施策や提言には本気で怒って欲しい。